テレビや雑誌で「足腰を鍛えるならスクワットが一番」とよく聞きませんか。 それを真に受けてやってみたものの、「膝が痛くてできない」「ふらついて転びそうになった」「きつすぎて三日坊主で終わった」という方は実は非常に多いのです。
もし、あなたやご家族がスクワットができないと悩んでいるなら、まずは安心してください。 無理をしてスクワットをする必要は全くありません。 むしろ、筋力が低下している状態や膝に痛みがある状態で、我流のスクワットを行うことは、膝関節を破壊したり、転倒して骨折したりするリスクが高く、非常に危険です。
大切なのはスクワットという形式ではなく、足腰の筋肉を刺激することです。 スクワットができなくても、椅子に座ったまま、あるいは布団に寝転がったままでも、同じかそれ以上の効果を得られる運動はたくさんあります。
なぜ高齢者に「普通のスクワット」は難しいのか
そもそも、なぜ多くの方がスクワットで挫折してしまうのでしょうか。それは決してあなたの根性がないからではありません。体の構造的な変化やリスク管理の観点から、ハードルが高すぎるのです。
膝関節への負担が大きい
通常のスクワットは、体重の数倍の負荷が膝にかかると言われています。加齢により軟骨がすり減っている場合、この負荷が痛みとなり、炎症を悪化させる原因になります。痛みを我慢して続けると、変形性膝関節症を進行させてしまう恐れさえあります。
バランス能力の低下による転倒リスク
スクワットは、しゃがみ込む動作と立ち上がる動作の連続です。これには筋力だけでなく、重心を制御する高度なバランス能力が必要です。ふらつきがある方が手放しで行うのは、転倒訓練をしているようなもので、非常に危険です。
正しいフォームの習得が難しい
背筋を伸ばす、膝をつま先より前に出さない、お尻を突き出す……。これらを同時に意識するのは、若者でも難しいものです。間違ったフォームで行えば、効果がないどころか腰痛の原因にもなります。
だからこそ、できない場合はすっぱりと諦め、より安全で効果的な代替運動に切り替えるのが賢い選択なのです。
代替運動1:椅子からの立ち座り(最強の安全スクワット)
スクワットができない方に最もおすすめしたいのが、椅子を使った立ち座り運動です。 これは実質的にスクワットと同じ動作ですが、後ろに椅子があるという安心感と、座ることで休憩ができるため、膝への負担と転倒リスクを劇的に減らすことができます。
具体的なやり方
- 準備として、動かない安定した椅子(キャスターなし)を用意し、浅めに座ります。足は肩幅程度に開き、足の裏全体を床につけます。
- 両手を胸の前で組むか、不安定な場合は太ももの上に置きます。
- お辞儀をするように上体を前に傾け、足の力でゆっくりと立ち上がります。
- ここがポイントです。座る時こそトレーニングです。ドスンと座らず、3〜4秒かけてゆっくりとお尻を椅子に下ろします。太ももの筋肉がプルプルするのを感じてください。
回数の目安
1セット5回〜10回。1日2セット。 テレビのCM中に行うなど、生活の一部に組み込んでみましょう。

代替運動2:座って膝伸ばし(膝を守る筋肉を鍛える)
膝が痛くて体重をかけるのが怖いという方には、座ったままできる膝伸ばし運動が最適です。 これは太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)を集中的に鍛える運動です。この筋肉がつくと、膝のお皿が安定し、歩行時の膝の痛みが軽減する効果が期待できます。
具体的なやり方
- 椅子に深く座り、背筋を伸ばします。両手は椅子の座面の両脇を軽く持ちます。
- 片足を床から浮かせ、つま先を天井に向けたまま、膝をゆっくりと真っ直ぐに伸ばします。
- 膝が伸びきったところで、太ももに力を入れて5秒間キープします。1、2、3、4、5と声に出して数えましょう。
- ゆっくりと元の位置に戻します。これを片足ずつ交互に行います。
回数の目安
左右交互に10回ずつ。1日2セット。 足首におもり(重錘バンド)を巻くと負荷を高められますが、最初は自重だけで十分です。

代替運動3:寝ながらお尻上げ(ヒップリフト)
立って行う運動が不安な方や、腰痛持ちの方におすすめなのが、寝転がって行うお尻上げ運動です。 お尻の筋肉(大殿筋)と、太ももの裏側、そして背中の筋肉を同時に鍛えることができ、姿勢の改善や歩幅の拡大に役立ちます。
具体的なやり方
- 仰向けに寝転がり、両膝を立てます。足は腰幅に開き、手は体の横に置きます(手のひらは床)。
- 足の裏で床を踏みしめながら、ゆっくりとお尻を持ち上げます。
- 肩から膝までが一直線になる高さまで上げたら、お尻の穴をキュッと締めるイメージで3秒間キープします。腰を反らせすぎないように注意してください。
- ゆっくりとお尻を床に戻します。
回数の目安
1セット10回。1日2セット。 朝起きた時や、夜寝る前のお布団の上で行うのがおすすめです。

無理なく続けるための食事と脳のケア
運動の効果を高めるためには、ただ動くだけでなく、体の材料となる栄養と、体を動かす指令塔である脳の健康も大切です。
筋肉の素となるタンパク質を摂る
高齢になると、粗食になりがちでタンパク質が不足しやすくなります。 運動をした後は、筋肉が修復されて強くなるゴールデンタイムです。肉、魚、卵、大豆製品などを毎食片手一杯分は食べるように意識しましょう。食欲がない時は、プロテインや栄養補助食品を活用するのも一つの手です。
運動しながら脳トレ(デュアルタスク)
今回紹介した単純な運動に、脳への刺激を加えることで、認知症予防の効果もプラスできます。 例えば、椅子からの立ち座りをしながらしりとりをする、膝伸ばしをしながら好きな歌を歌うなど、二つのことを同時に行うデュアルタスクを取り入れてみてください。 笑いながら行うことで免疫力もアップし、心身ともに若々しさを保つことができます。
まとめ:できないことはやらなくていい
シニアの方に向けた、スクワットができない場合の代替運動について解説しました。
椅子からの立ち座り。座って膝伸ばし。寝ながらお尻上げ。
この3つは、スクワットに勝るとも劣らない立派な筋力トレーニングです。 スクワットができないからといって、運動そのものを諦める必要はありません。自分の体の状態に合った、痛みのない方法を選ぶことこそが、長続きの秘訣であり、正解なのです。
今日から、まずは椅子に座ったまま、片足を伸ばしてみることから始めてみませんか。 その小さな一歩が、何歳になっても自分の足で歩き続ける未来へと繋がっています。
もし、自分一人では続けられるか不安、もっと専門的なアドバイスが欲しいという場合は、シニア向けのヘルスケアサービスを活用するのもおすすめです。 脳と体の健康をトータルでサポートし、安心で楽しいシニアライフを送りましょう。





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